2025年度5月例会
2025年度5月例会連絡書
下記のように5月例会をおこないますのでお集まり下さい。
会長 小澤 純
記
日時 | 2025年5月24日(土)18:30〜20:30 |
場所 | 東京音楽大学 中目黒校舎小教室 |
発表 | 大村 新「録音資料から演奏表現を考える〜スクリャービンの自作自演における(造形的演奏〜)」 |
会費 | 会員:無料/非会員(一般):2,000円/非会員(学生):1,000円 |
内容要旨
本年度より通常例会は、参加者全員でのテーマの探究を目標とすることから、本例会はそのような例会スタイルを探究するための試験的なものとなる。
5月例会では「録音資料から演奏表現を考える」と題し、本学会のテーマである「演奏表現そのもの」について、客観的かつ具体的に語るための「概念」と「方法論」を深めることを目的としている。そのための資料として、今回はアレクサンドル・スクリャービン(1872−1915)が1910年にヴェルテ・ミニヨン社に残した自作自演の録音を取り上げる。
スクリャービンの自作自演は生前も死後も激しい賛否両論を巻き起こすものであった。賛成派・反対派の言説を参照すると、どちらもスクリャービンの「極端なアゴーギク」に言及していることがわかる。このように「演奏表現」自体が論争の中心となっているスクリャービンの自作自演を検討することは、今後の本学会における議論のあり方を考える上で、極めて適切かつ本質的な題材といえる。
幸いなことに、スクリャービンのアゴーギクはピアノ・ロールに残された録音から聴き取ることができる。さらにパーヴェル・ロバノフ(1923−2016)という研究者は、このピアノ・ロールのテンポ変化をグラフ化し、それを楽譜の上部に記載したトランスクリプションを作成しているので、我々にはそのアゴーギクを数値的、視覚的、そして客観的に把握する方法が与えられている。 まず本例会の前半では、このロバノフが作成したスクリャービンの《前奏曲》op. 11-13のトランスクリプションと、それを分析したアナトール・レイキンの『The performing style of Alexander Scriabin(アレクサンドル・スクリャービンの演奏様式)』(2011)の記述を詳細に検討する。この検討は、常に下記の「3つの問い」が根底に横たわったものとなる。
①この2人の研究者が、どのような方法論によって演奏表現を客観的に記述しているのか
②なぜこのような方法論が必要なのか
③この方法論をどのように「今後の本学会の議論」に応用することができるのか
例会の後半は、前半を踏まえ、参加者全員でスクリャービンの《前奏曲》 op. 11-2の自作自演を検討する。その演奏表現の特徴・機能について議論し、可能であれば互いに試演する機会を設けたい。
以上、「演奏表現について議論するとはどういうことか」を会員全員で学ぶ機会としたい。
なお、補足的にスクリャービン特有の演奏表現を実現するための運指法やペダリングについて触れる。
一般的には運指やペダリングは「解釈に寄与するプラス面」ばかりが注目され、論じられることが多いが、本例会ではそれらが身体上の制約として、「音楽の流れを阻害するマイナス面」として現れる場合について述べたい。これはあまり論じられることはないが、純粋に音楽から要請される表現(精神性)に対する、ピアノの構造と手の構造の限界(身体性)を知ることであり、特に初心者教育に有用な視座と思われる。
このような形で「精神性」「身体性」という今年度テーマを踏まえ、本学会のテーマである「演奏表現」自体について、多角的にアプローチする機会としたい。 また、できれば 参加申し込みの際に「演奏表現」に関わる自身の研究領域や関心について、〈簡単なコメント〉をお送りください。短くても長くても構いません。 例会後半はそれに基づいて、参加者全員に〈簡単な問いかけ〉をしたいと思います。特別な知識を要求したり、答えにくい質問はしませんのでご安心ください。 しかし、そのコメントから皆様の興味関心に沿った、学会らしい〈ユニークな議論〉を作りあげたいと思っています。よって、参加人数は15名程度を想定しています。
【参考文献】 Anatole Leikin 著 『The performing style of Alexander Scriabin』Ashgate Publishing Limited 2011 ※ 事前に読む必要はありません。例会の前半で解説します。もしご興味のある方はご購入ください。
【参考楽譜】 スクリャービン:《24の前奏曲》op. 11より第2曲、第13曲。 例会当日までにこの2曲をさらってみる、もしくは分析してみた方が、より深い議論に参加できます。 音が多い曲ではないので、弾くのは比較的容易だと思いますが、これも強制ではありません。 希望者がいれば、演奏しながらこの作品についての所見を述べていただこうと思います。完璧にできなくても何も問題ありません。 発言と実演を両方行いながら、演奏表現を論じる「練習」の機会だとお考えいただければと思います。 その「難しさ」「やりがい」を感じていただければと思います。
【参考演奏】
①Alexander Scriabin: Prelude op. 11-13
https://youtu.be/q3KbTSkB8XE?si=PMfKOdRHewpkmYri
②Alexander Scriabin: Prelude op. 11-2
https://youtu.be/k5rhZBCEvyg?si=jJLXS4TuE0CCUGEQ